水の都、【建業】。
噂に聞くとおり、水に囲まれた陽気な街だ。
長安とはまた違った活気がここにはある。
その陽気に釣られ、街中を見て廻ることにした。
例により、露店を開いている商人達から話を聞く。

タダでなら貰ってやってもいい。
そう言うとそれ以上なにも喋らなくなった。

お前は農民ではないか。
何でも言えばいいというものではない。
陽気なのは景色だけではなかったようだ。
街の住民も気さくに話しかけてくる。
正直鬱陶しいことこの上ない。
大方話を聞いて廻ったのち、
前もって潜入させていた情報屋の所に赴いた。

この男の名は【茂夫】。
私の雇っている情報屋の中でも群を抜く、優秀な肉まん屋である。
あまりに肉まん作りに没頭し、情報を集めてこない事もある茶目っ気も併せ持つ。
そしてなにより、長安で犠牲になったよし子の夫でもあるのだ。
お前の嫁の仇は必ず討つ。
そういうと茂夫はニコリと微笑み、肉まんを握り続けた。
茂夫の集めた情報を聞き、立ち去ろうとした時の事だった。
不意にさっきからいた一人の客が喋りだした。

命知らずとはまさにこのこと。
不味いものは不味いとはっきり言うべきなのだ。
さっきまで肉まんを握っていた茂夫の手がピタリと止まった。
そして私が彼方を向いた刹那、
背後からゴキゴキと音が鳴り、断末魔の悲鳴が聞こえた。
茂夫の肉まんを握る時の握力は岩をも砕くと聞く。
その威力を人に使えば、結果は火を見るよりも明らかだ。

そんなやり取りを尻目に、目的の城へと足を向ける。
いよいよ三国の最後の君主と対面することになった。
いささかの緊張を伴いながら城の中に入る。

―【孫権】。
呉の君主である。
至って普通で特にこれといった特徴もなく、普通としか言いようがない。
まだ蜀にいたへたれの方がましに見える。
あえて言うならば頭の上に物を載せやすいというところか。
なにか損をした気分のまま、城を後にした。

が、城を出るかというまさにその時。
異様な程の巨大な邪気を感じ取った。
―この邪気は背後から放たれている。
そう思うと同時に背後を振り返る。
そしてその姿を見た時、かつてないほどの戦慄がほとばしった。

その巨大な邪気を放っていた者。
それこそがあの【よしのり】であったのだ。
だがよしのりは以前、たしかに私が細かく刻んで封じたはず。
それが何故、再び姿を現したのか。

だがそんな疑問を抱くよりも、よしのりが目の前にいるのは事実。
再び現れたのであれば、また私の手で葬るしかない。
だが、以前のよしのりとは違い、明らかに力が上がっている。
今戦えばいくら私とて、勝てる見込みはないに等しい。
額の汗がしたたり落ちていくのがわかる。

よしのりはその私の様子を見、嘲笑うかのように立ち塞がる。
だが、きのこなので喋らない。
これでは話が進まないので、よしのりの心の中を読みとる。
どうやら私が封じたのはよしのりのほんの一部であったらしい。
本体は別の場所で力を蓄えていたのだ。
そう、この大陸の覇権を握るために。
だがやはり風に飛ばされ、たまたまここに根付いたようだ。
毎度ながらはた迷惑な話である。

心を読み取り終わるかどうか、まさにその時、
猛烈な突風が巻き上がった。
あまりの激風に思わず顔を覆う。
そして再び顔を上げた時、そこにもうよしのりの姿はなかった。
どうやらまた何処かへ飛ばされたようだ。
それを見て強大な邪気から開放された安堵からか、体中からどっと汁がでた。
・・・よしのりの出現により、
この大陸はますます混乱と恐怖に陥れられるだろう。
―【魏】・【蜀】・【呉】の争い。
【よしのり】の邪悪なる野望。
そしていまだ見ぬ【第4の勢力】・・・
それらを制するには今の私では心許ない。
更なる修行の旅にでる必要があるだろう。
決意を新たにし、次なる修行の地へと旅立つのであった。

― 第一部 完 ―
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